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紅葉の主役はカエデやモミジです。
━━━ 今日の歌 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
わが屋戸(ヤド)に 黄変(モミツ)鶏冠木(カヘルデ) みるごとに
妹を懸けつつ 恋ぬ日は無し (万葉集)
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「カエデ」は古代には、「蛙手(カヘルデ)」と呼ばれていました。
蛙の足のように、葉が五つ六つに分かれているところから来たのでしょう。
その後、「ル」が省略されて「カエデ」と呼ぶようになりました。
また、鶏冠(トサカ)にも似ているので「鶏冠木(カヘルデ)」と出てきます。
「モミジ」は上代の動詞の「モミツ」に基づいています。
草木の色が変わるという意味です。
その色の変化は、私たちが想像する紅色に変わるのではなく
黄変するものが、多いようです。
万葉集の歌にも、黄変するものが多く見られます。
カエデもモミジも同じカエデ属です。
そのカエデ属の種類の多さは、日本は世界一です。
春には葉とともに、暗紅色の小さな花をつけます。
花の後、翼を持った果実を持ちます。
この果実も可愛いものです。
中国や他の国では、紅色より黄変するものがほとんどです。
日本の紅葉は、言葉どうりに綺麗な紅色そして黄色と
その色どりの紅葉は、他の国では見られない美しいものになっています。
カエデやモミジは人気のある木ですから
江戸時代に、多くの園芸品種が生まれ
今でも種類の多い木の一種です。
そのカエデの名称、モミジの名称に
それぞれ
「イロハカエデ」、
「イロハモミジ」と呼ばれています。
古の人は、
色づいた葉を、愛でながら
葉先が分かれているところを
イ・ロ・ハ…と
数えていったのかなと想像します。
紅葉をきちんと眺めてからでないと
心で冬の準備が始められないようになっているなと思う昨今です。
今日の万葉の歌は
我が家のカエデの紅葉を見るたびに
あなたを恋しく思わない日はありませんと詠っています。
━━━ 今日の詠み歌 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
舞う風に 葉先縮らせ 赤もみじ
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古代では、マユミ(檀)で作った弓が最高の弓でした。
━━━ 今日の歌 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
南淵(みなぶち)の 細川山に 立つ真弓
弓束(ゆづか)まくまで 人に知らえじ (万葉集)
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気温が冷えて、色づいた葉。
その紅葉も風に舞いはじめています。
紅葉が散り始めると
色づいた木々の実が目立ってきます。
ヤマニシキギと別名がある「マユミ(檀)」。
ニシキギの葉に似た紅葉は素晴らしいものがあります。
その紅葉が散り始めると
ひそかに淡紅色の果実が熟して裂けて
真っ赤な種が覗き出てきます。
この可愛い種は、冬の鳥を呼んできます。
マユミはその名の通り
この材で、弓を作りました。
弓としては、「マ弓」、「アズサ弓」、「ハジ弓」などがでてきます。
その中の、マ弓は、マユミで作られた弓。
マユミはしなやかで強く最高の弓材だったのです。
その弓を讃える接頭語の「マ」がついて
マユミと呼ばれるようになったといわれています。
万葉集で、マユミを詠んだ歌は
すべて弓に関係する歌です。
この歌は、真弓の木を女性に例えて
意中の女性をすっかり手に入れるまでは
人に知られないようにしようと…
今も昔も、意中の人を射止める苦労が偲ばれます。
━━━ 今日の詠み歌 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
冬近き 真弓の果割け 小さき朱
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天の岩戸神話にも出てくる、「賢木(サカキ)」は今でいう「榊」
━━━ 今日の歌 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
奥山の 賢木(サカキ)の枝に 白香(シラカ)つけ
木綿(ゆふ)とりつけて いはひべを 斎(イハ)ひほりすゑ
(坂上郎女)
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アマテラスが、スサノオの横暴に腹を立て
天の岩屋の戸を閉ざしてしまうのです。
アマテラスは日の神です。
アマテラスが戸を閉ざしたために
地上は真っ暗闇になり、悪神が活動し始め
悪いことが一時におこるのです。
そこで神々が話し合い
サカキをかかげ持って、祝詞を読み上げ、
アメノタジカラオという
大力の神が岩戸の陰に隠れ
アマノウズメが、岩戸の前の大きな箱の上に
上がって踊り始めるのです。
「天の真折(マサキ)」を蔓として
手には「小竹葉(コササバ)」を持って
憑かれたように
腰をふりながら踊るのです。
この賑やかさに、
アマテラスは岩屋の外を覗こうとした時
アメノタジカラオに力いっぱい外に連れ出されます。
そして、地上に明るい日が射すようになるのです。
この話にも出てくる「賢木(サカキ)」は
常緑樹であることから栄木(さかえき)として、
生命力のシンボルとされ、神聖視されてきました。
この時代の「賢木(サカキ)」は、
今の榊というより、常緑樹の松や樒(しきみ)なども
「賢木(サカキ)」と呼ばれていたようです。
いずれにしても、神のいる聖地と
人々のいる生活の場の境を示す木ですが、
特定の木ではありませんでした。
後世になり、今日のサカキが神祭の木として
ふさわしいとなり、用いられるようになったのです。
サカキは、関東以西に生えるため
葉が小さくて密生する、ヒサカキも使われています。
今回の万葉の歌は
大伴旅人の妹、坂上郎女の歌です。
大伴氏の氏神を祀る、長歌です。
この歌から、神を祀る時に
サカキの枝に、白い木綿を飾っていたようすがわかります。
古の、神祭の様子が伺える一首です。
━━━ 今日の詠み歌 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
秋深き 榊葉の茂り 色づく実
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葦の下には、「蒲(ガマ)」が生えていました。
━━━ 今日の歌 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
蒲の穂に 葦の穂先は とどかねど
とどかぬなりに 揺れの寒けさ (北原 白秋)
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ガマは、古事記に出てきますが
万葉の頃には忘れられたようです。
今回は、北原白秋が
葦と蒲が生えてる水辺を詠んだ歌です。
「蒲(ガマ)」というと、「因幡の白ウサギ」です。
日本の神話を考える時に
一番に挙げられるのが「因幡(いなば)の白ウサギ」です。
これは、出雲神話ですが、
私は、大きくなるまで童話と思っていました。
古事記や出雲神話など
大人になって読むと、いろいろ示唆することがあり
興味深い読み物でもあります。
あらすじはご存知でしょうが…
大国主命には、沢山の兄弟がいました。
その兄弟たちを八十神(やそがみ)といいます。
ある時、因幡国に、ヤガミヒメという美しい姫を妻にしようと
八十神(やそがみ)達が、ぞろぞろ出かけます。
おとなしい神の、大国主命は一番最後についていきます。
兄弟たちの荷物を大きな袋に入れて
その大きな袋を担いで、最後を歩いていきます。
菟(うさぎ)が淤岐島(おきのしま)から因幡国に渡るため、
ワニ(和邇)を騙して渡ろうと画策します。
そして、兎が海の上に並んだワニ(和邇)を渡り終わろうとする時、
菟がポロリともらしてしまいます。
それを聞いたワニ(和邇)が怒り、菟の身を剥がしてしまいます。
剥がされた菟の傍を、八十神達が通りかかり、
お前は海水を浴び、高い山の上で風に当たって寝ていろ」と指示します。
菟がその通りにすると、海水が乾くにつれて身の皮が風に吹き裂かれ、痛い。
八十神の一番最後に来るのは、大国主の命。
痛くて泣いている菟に、声をかけるのです。
真水で身体を洗い、ガマの花粉を敷き詰めてそこでころがりなさい。
と教えるのです。
そのとおりにすると、体は元通りに直ります。
菟は、大国主命に
「あなたがきっと姫をめとりますよ」というのです。
この菟は、後に菟神と呼ばれるようになりました。
出雲に、白兎神社がありそこに祀られています。
この話は、古事記に出てくるものですが、解説はいろいろあります。
ワニ(和邇)はサメではないか?
ワニ(和邇)などを使って海を渡る話などはアジアではいろいろあるようです。
アジアの人達が大陸から来て
語り継がれてきたものなのでしょう。
菟の治療で使った蒲の花粉は「蒲黄(ほおう)」といい傷薬になります。
文献に出てくる、最初の薬になるのではないでしょうか。
何の情報もない時代に、
的確な、植物を使って治療したり、
滋養にしたりしていることに、感心します。
筑波山で売られている「ガマの油」も、これなのでしょう。
それぞれが何を介して、伝わっていったのでか知りたいものです。
それを治療した、大国主命は医療の神としても祀られています。
その大国主命は、すんなり姫をめとることはできません。
兄弟の八十神達から、いろいろな嫌がらせを受けます。
まるで、いじめです。
ガマの茂る水辺に行くとついつい
思い出してしまう、「因幡の白ウサギ」。
大人になって、読んでみると面白いです。
━━━ 今日の詠み歌 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
蒲の穂を 手に取り試し かかる疵
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━━━ 今日の歌 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
花ぐはし 葦垣越(あしがきこ)しに ただ一目
相見(あいみ)し児(こ)ゆゑ 千遍嘆(ちたびなげ)きつ(万葉集)
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日本の国が、文章で綴られる記紀では
古くは、「大八州国(おおやしまのくに)」と
そして、「葦原の中つ国」「豊葦原の瑞穂国」などと記されています。
日本を、稲作の国となぞらえて、
稲作を行う上での形容として葦原をとらえています。
昔からの稲作を考えると、アシとイネは関係が深いのものです。
今回の植物は「葦(アシ)」。
背の高いアシが沼地などに生えて、晩秋の風にたなびいています。
銀白色に穂が夕日を受けて、長い影を水辺に落としています。
今では、沼地に鬱蒼としているアシですが
日本というよりも、人類とともに傍で生育している植物です。
古事記には、天と地が、混沌としてはっきりしなかったころ
高天原(タカマガハラ)というところには
天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)が現れます。
次に高御産巣日神(たかみむすびのかみ)と
神産巣日神(かみむすびのかみ)が現れす。
このころはまだ日本の国土はしっかり固まっていません。
水にただ漂っていたのです。
そして、湿地に生える若芽のように現れるのが
宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこじのかみ)、
そして天之常立神(あめのとこたちのかみ)も現れます。
ここまでの5神を合わせて別天神(ことあまつかみ)と言います。
更に十神の神が現れ
最後に、伊邪那岐(いざなぎ)神・伊邪那美(いざなみ)神が現れます。
天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)が
男女の、伊邪那岐(いざなぎ)神・伊邪那美(いざなみ)神に
土地をしっかり固めるように命じるのです。
その際に、「天の沼矛(あまのぬぼこ)」を与えます。
男女の神は、天の浮橋に立ちその矛をぐるりとかきまわして
矛を引き上げて、海水がポトポト滴り落ちて
みるみるうちに固まり、一つの島が出来た。
男女の神は、この島に降りて
天の御柱を立て、双方が逆に廻り、出会った時に島が生まれるように
国生みの仕事を始めるのです。
そして、出会った時に、女神の伊邪那美(いざなみ)が声をかけて
男神の伊邪那岐(いざなぎ)をほめたたえます。
その時生まれた島は、水蛭(ヒル)のように固まらない子でした。
二人は、水辺に生える葦(アシ)で作った船に乗せて流してしまいます。
天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)に伺いを立て
今度は、男神の伊邪那岐(いざなぎ)から
女神の伊邪那美(いざなみ)に声をかけるのです。
そうすると、うまく成功して、大八州(おおやしま)が誕生するのです。
そんな、国生み神話に登場する植物の「葦(アシ)」
天地の初めに若芽で登場して、
宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこじのかみ)であるのです。
男女の神の最初の子の 水蛭子(ヒルコ)を
乗せて流したのが、葦で造った船で流したこと。
国生みに関して最初に出てくる植物「葦(アシ)」に注目されます。
アシは「悪し」と連想させるので
反対の「ヨシ(善し)」とも
よんでもいます。
アシの若芽は食用となり
茎は、すだれや敷物のもなり
家の屋根を葺くのにも使い、
垣根としても使い
燃料としても使われていました。
日本の誕生と同じく
出自するアシは
私たちの生活に
欠かせない植物でした。
万葉集にも「葦(アシ)」を詠んだ歌が多く見られます。
今回の歌は、「葦(アシ)」を使った垣根、葦垣を詠った歌です。
アシの垣根は、あまり丈夫ではなかったようですが…
━━━ 今日の詠み歌 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
葦茂み 鳥の羽音に 穂先舞う
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